奈辺書房

不確かなこと日記。

ゆれる

空気中に厚い膜でも張っているんじゃないかと思うほどヌメっとした湿度を伴った夏の夜に、メンソールの煙草はほんの僅かな爽快感を与えてくれる。

 

きっと、生活するうえで大切なことなんて、多くを語りすぎないことや何かを奪うまで求めないことくらいに収まるのかもしれない。

 

西川美和監督『ゆれる』は僕の大好きな作品だ。その中で主人公を演じるオダギリジョーは上京してカメラマンをしているのだが、途中流れる8mmフィルムで撮影された映像には、不思議な質感があった。その映像は決して自分の記憶ではないのに、いつかどこかで自分が体験した記憶を追いかけるようで、まるで天日干しをしてふっくらした布団のように柔らかな感覚。

 

それらは人間の心情をバラエティ番組のように面白おかしく操るために紡ぎ合わせられたのとは正反対。悪くいえば味気ない、ただの生活の繰り返し。どうしてこんな生活の繰り返しに胸を打たれるのだろうか。