奈辺書房

不確かなこと日記。

発明家の美学

心地よい空気の振動に身をまかせること。たったそれだけのことに、喜怒哀楽すべてがどうにか報われるような気がした弱さを時々思い出す。

 

頭を掻きむしる左手は、道端に立ち竦む誰かに差し伸べる右手より強かった。左脳では慰められない感傷のために、右脳は言葉にならない言葉を浮かべる。

 

もしも人生がひとつの唄だとしたら、きっとCメロの辺りを幾度も再生すると思う。そのうちテープが擦りきれて、最後のサビは聴けなくなるかもしれないねと言った誰かのジョークは、MP3プレーヤーの誕生によって指先で埃を弾くように打ち消された。

 

テクノロジーは身体を拡張し続けるか。それともいつか、身体そのものを超克するか。いつか、明けない夜が発明されたとしたら、そこに月の明かりは再現されるのだろうか。