綺麗事
なんてことの無い嘘を吐いてしまえば、物事が円滑に進むことが増えた。
こうして考えたことを拙い文章に纏めて吐き出している理由は、思ったことや感じたことを人前で巧く気の利いた言い回しを使って伝えることができないからだ。そして、伝える対象もいないからだ。
責任を持たないくせに他人の人生に評価を下してくるような人の助言は、雑音に等しい。そんなものは聞かなくたって差し支えないのに、この惨めな孤独が聞いてしまう。
何かを伝えるためには、それを受け取る相手が抱く感情の輪郭を丁寧になぞれと言われた。だけど、相手の気持ちばかりに気を取られて自分の気持ちをおざなりにしてしまっては、一体自分が何を伝えたかったのか忘れてしまう。
夜更かしをしてまで観た映画はそんなにおもしろくなかった、また講義に遅刻した、寝起きの夕焼けが無駄に綺麗だった、女友達が女の顔を向けてきたことが心底厄介だと感じた、自分を過信しすぎて失敗を受け止められなかった、誰かを欺くために誤魔化したことが高く評価されてしまった、浅はかだと思っていたあいつは努力家だった。
卑しい感情すべてに折り合いをつけられたことなんて、ただの一度もないくせに、「くよくよしていても仕方がないさ」と明るく振舞う自分に酔いしれていたこと。
全部ひっくるめて僕だという事実が、全部ひっくるめて嫌いだ。
子どもの頃に思い描いた22歳の生活とは、随分かけ離れた張り合いがない人生だ。